2023.07.14

プラスチック問題とその影響について vol.2:資源枯渇の危機とリサイクルの真実

ペットボトルや大量生産、大量消費など

私たちが日常的に手にしているプラスチック。軽くて丈夫、そして安価に成形できるこの「魔法の素材」は、20世紀以降の人類の生活を劇的に豊かにしてきました。しかし、その利便性の裏側で、地球環境は今、かつてないほどの大きな代償を支払わされています。

前回のvol.1ではプラスチックの基礎について触れましたが、今回のvol.2では、プラスチックが引き起こす「資源枯渇」の問題と、それを解決するために進められている「リサイクル」の現状と限界について深掘りしていきます。

名古屋市が掲げる「プラスチック削減方針」を一つの指針とし、私たちが直面している現実を詳しく見ていきましょう。


1. 大量生産・大量消費・大量廃棄が招く「資源枯渇」のリアリティ

「資源を大切に」という言葉の形骸化

「資源を大切にしましょう」というフレーズは、小学校の教科書から企業のCSRレポートまで、至る所で目にします。しかし、あまりにも聞き慣れた言葉になりすぎたせいで、その本当の危機感が薄れてしまっているのではないでしょうか。

かつて、1970年代から80年代にかけてのオイルショック直後には、「石油はあと30年程度で掘り尽くされてしまう」という試算が世界を駆け巡りました。しかし、実際には40年以上経った現在でも、私たちは当たり前のように石油を利用し続けています。

 

なぜ「あと30年」は外れたのか?

石油の寿命が延びたように見える理由は、石油そのものが増えたからではありません。

  • 採掘技術の飛躍的発展: 以前は掘り出せなかった深い海底下や、硬い岩盤に含まれる「シェールオイル」などを回収する技術が確立されました。

  • 探査精度の向上: 未発見だった油田を特定する精度が上がりました。

これらの技術革新により、利用可能な石油の埋蔵量(確認可採埋蔵量)が増えたため、一時的な危機感は薄れました。しかし、ここで忘れてはならないのは、「地球にある石油の絶対量は増えていない」という事実です。

 

プラスチックは「古代の生命」の使い捨てである

石油の起源については諸説ありますが、主流の説では、2億年から6千万年前の地球にいた恐竜やプランクトンなどの生物の死骸が、地底で長い年月をかけて熱や圧力を受け、変質したものだと言われています。

つまり、石油ができるまでには数千万年単位の時間がかかるのです。それに対し、プラスチック製品の多くは、製造されてからわずか数分から数日で「ゴミ」として捨てられます。数千万年かけて蓄積された貴重なエネルギーを、私たちは一瞬で使い捨てている。これがプラスチック問題の根底にある「資源の不均衡」です。

プラスチックを大量に生産・消費し、廃棄し続けることは、いつかは必ず尽きてしまう地球の資産を、次世代の許可なく切り崩していることに他なりません。


2. プラスチックリサイクルの種類とその仕組みを理解する

資源枯渇を防ぐための最も有効な手段は「使用量を減らす(リデュース)」ことですが、どうしても必要不可欠なプラスチックについては、「リサイクル(再生利用)」の取り組みが重要になります。

日本における廃プラスチックのリサイクル率は現在およそ24%(有効利用率全体で見れば80%超ですが、純粋な再資源化は2割強)です。リサイクルには、主に3つの手法が存在します。

 

(1) マテリアルリサイクル(物から物へ)

マテリアル(Material)は「物・材料」を意味します。廃棄されたプラスチックを溶かしたり細かく砕いたりして、再びプラスチック製品の原料として利用する方法です。

・同一製品へのリサイクル: ペットボトルから再びペットボトルを作る「水平リサイクル(ボトルtoボトル)」などが代表例です。

・異なる製品へのリサイクル: ペットボトルから衣類の繊維(フリースなど)を作ったり、プラスチックトレイからベンチや建築資材を作ったりします。

メリット: 廃棄物を直接的に原料化するため、資源の循環が目に見えやすい。

課題: 繰り返すたびに品質が劣化(ダウンサイサイクル)しやすく、汚れや異物の混入に弱い。

 

(2) ケミカルリサイクル(化学的な分解)

廃棄物を化学反応によって分子レベルまで分解し、他の化学物質に変えてから原料として再利用する方法です。

・具体的なプロセス: 廃プラスチックを高温で溶かし、水素や二酸化炭素などの合成ガスを抽出します。

・用途: 生成された水素をアンモニアの製造に利用したり、二酸化炭素からドライアイスや炭酸ガスを作り出したりします。また、再びプラスチックの原料(モノマー)に戻すことも可能です。

メリット: 汚れや色のついたプラスチックでも処理が可能で、新品に近い品質のプラスチックを再生できる。

課題: 大規模なプラント(工場)が必要で、処理に多大なエネルギーとコストがかかる。

 

(3) サーマルリサイクル(熱エネルギーとしての利用)

リサイクルが困難な汚れたプラスチックなどを燃やす際に発生する「熱」を回収して利用する方法です。「熱回収」とも呼ばれます。

・活用例: 燃焼時の熱を温水プールの加温に利用したり、蒸気タービンを回して発電(廃棄物発電)したりします。

メリット: 分別が難しいゴミでもエネルギーとして有効活用できる。

課題: 欧米ではこれを「リサイクル」と認めない傾向が強い(一度燃やせば資源としては消滅するため)。


3. 現状の「有効利用率86%」という数字の罠

日本における廃プラスチックの有効利用率は「86%」と発表されており、世界的に見ても非常に高い水準にあるように見えます。しかし、この数字を鵜呑みにして「日本はリサイクル大国だから安心だ」と考えるのは危険です。

 

熱回収は「資源の循環」ではない

有効利用の86%という数字の内訳を見ると、実はその約7割が「サーマルリサイクル(熱回収)」です。 確かに、ただ埋め立てるよりは熱エネルギーとして活用する方がマシかもしれません。しかし、サーマルリサイクルは「一度燃やして終わり」の使い捨てエネルギーです。

資源を何度も循環させる「マテリアルリサイクル」や「ケミカルリサイクル」とは異なり、燃やしてしまえば二度とプラスチックには戻りません。つまり、石油資源を消費し続けているという点では、単純な廃棄と変わらない側面があるのです。

 

リサイクルに伴う「残さ(ざんさ)」の問題

マテリアルリサイクルにおいても、100%の回収ができるわけではありません。

・リサイクル工程で取り除かれる不純物

・劣化して再生できなくなったプラスチックの破片 これらは「残さ」として最終的に廃棄(焼却・埋め立て)されることになります。

リサイクルの効率を上げることは「石油資源がなくなるスピードを緩める延命措置」にはなりますが、根本的な解決にはなりません。プラスチックの有効利用を進めるだけでは、地球から資源を掘り出す蛇口を閉めることはできないのです。


4. 私たちに求められる「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への転換

資源枯渇の問題を根本から解決するためには、これまでの「作って、使って、捨てる(リニアエコノミー:線形経済)」から、最初からゴミを出さない設計を目指す「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への転換が必要です。

 

リデュース(Reduce)の圧倒的な重要性

リサイクル技術の発展はもちろん重要ですが、最も優先されるべきは「プラスチックの使用量そのものを減らすこと」です。

・過剰包装の拒否: 本当にその個包装は必要なのかを問い直す。

・代替素材の活用: 再生可能なバイオマス素材や、繰り返し使えるリユース容器の活用。

 

名古屋市の取り組みと市民の役割

名古屋市では「プラスチック削減方針」に基づき、市民・事業者・行政が一体となった削減活動を推進しています。 「そのプラスチックは本当に必要ですか?」という問いかけは、単なるスローガンではなく、資源枯渇を食い止めるための最もシンプルで強力な武器になります。

私たちがコンビニでレジ袋を断る、あるいはペットボトルの代わりにマイボトルを持つ。一つひとつは小さな行動ですが、それが社会全体の需要を動かし、石油掘削のスピードを落とす力になります。


5. まとめ:未来に石油を残すために

プラスチック問題は、単なる「ゴミ問題」ではありません。それは、数千万年かけて地球が蓄えた「石油」という有限の財産を、私たちがどう扱うかという「倫理と責任」の問題です。

リサイクルは非常に重要な技術ですが、それだけに頼るのではなく、まずは「使わない」という選択肢を常に持つこと。そして、どうしても使う場合には、マテリアルリサイクルなどの循環性の高い方法を支えるための「正しい分別」を徹底すること。

一人ひとりの意識の変化が、未来の地球に資源を残すための唯一の道です。


次回のテーマ:vol.3 地球温暖化の問題

プラスチックの問題は、資源枯渇だけにとどまりません。プラスチックの製造から廃棄に至るすべての工程で排出される温室効果ガスは、地球温暖化を加速させる大きな要因となっています。 次回のvol.3では、プラスチックと気候変動の深い関わりについて詳しく取り上げます。

 

引用元:名古屋市プラスチック削減方針~そのプラスチックは必要ですか?~ (本コラムは、名古屋市の公表資料を基に、資源循環の重要性を広く伝えるために構成・執筆されています)

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